家主が火災保険に加入していれば入居者は保険に入らなくていいってホント?

賃貸の火災保険では入居者に火災保険の加入が求められることがほとんどですが、家主が火災保険に入っていれば加入の必要はないと思っている方も多いようです。
しかしそれは大きな間違いです。その理由をきちんと理解しておきましょう。

家主が加入するのは建物の火災保険

賃貸住宅は、通常家主が建物の所有者ですので、家主は事故や災害に備えて火災保険に加入していることがほとんどです。自分の所有する建物で火事や事故が発生した場合には、保険でその損害が補償されるわけです。それなのになぜ入居者が別途保険に加入しなければならないのかわからない、加入する必要はないと思われる方も多いようですが、それは大きな間違いです。入居者に保険加入が義務づけられているのはきちんとした理由があるのです。

「もらい火」による損害は火元の人に賠償請求できない

まず理由のひとつとして、失火責任法(明治32年制定)という法律があります。民法では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められており、火災による損害もこの原則からすると火元の人に損害賠償請求できるはずなのですが、失火責任法は「重大な過失がない限り」火元に損害賠償責任がないと定められています。つまり、隣室からの延焼などで自分の部屋や家財に損害を受けても火元には賠償請求できないことになりますので、火災保険(家財補償)に加入し自分のモノは自分で守る必要があるということなのです。

入居者は家主に対して、部屋を原状回復して返還する義務を負っている

2つ目の理由は、入居者はその部屋を退去する際に、原状回復して家主に明け渡す義務を負っているということです。例えば火事で借りている部屋に損害が発生した場合、入居者はこの義務を果たせなくなります。そして、この原状回復義務は、たとえ自分に過失がない場合(もらい火)でも免れることはできず、それができない場合には、民法415条(債務不履行)による賠償責任が発生します。
仮に建物が家主の火災保険で修繕できたとしても、入居者がその責任を免れるわけではありませんので、保険金を支払った保険会社から賠償請求されることもあり得ます。これが火災保険(借家人賠償責任補償)に加入しておかなければならない理由です。

第三者に対する賠償責任を負うことがある

最後の理由は、第三者に対する賠償責任です。アパートやマンションなどの共同住宅では、階下や近隣の住人に対して損害賠償責任を負うことがあります。例えば洗濯機からの漏水で、階下の住人の家財を濡らしてしまった、ベランダから植木鉢が落下して、歩いていた人にケガをさせてしまった等の場合です。当然、このようなケースは家主の火災保険では補償されませんので、自分自身で火災保険(個人賠償責任補償)に加入しておく必要があるわけです。

賠償責任保険は単独では加入できない

このように家主に対する賠償を補償する「借家人賠償責任補償」と、第三者に対する賠償を補償する「個人賠償責任補償」は、単独で加入することができず、必ず入居者の家財補償とセットで加入することになります。入居者の家財の補償は入居者の意思で決めることができますが、借家人賠償責任補償と個人賠償責任補償については、家主と他の入居者を守るという観点から、一定の補償額を条件とされることも多いようです。

まとめ

  1. 家主が火災保険に加入していても入居者の火災保険が不要になるわけではない
  2. 失火責任法により、もらい火であっても火元に損害賠償請求することはできない
  3. 入居者の原状回復義務は、過失の有無にかかわらず履行しなくてはならない
  4. もし履行できなければ債務不履行となり賠償責任を負うことになる
  5. 第三者への損害賠償責任は家主の保険では補償されない